医療ニュース 2009/8/24

「たらいまわし」と「おかね」

【アメリカで気になった日本の医療問題の一つに「たらいまわし」がある。】

アメリカで気になった日本の医療問題の一つに「たらいまわし」がある。この「たらいまわし」問題を解決するためには、日本では話題にすることがタブー視される「おかね」の話を避けられないように思う。
ベッド稼働率を上げなければならない病院
「たらいまわし」の原因はいろいろあるだろうが、その1つはベッドが満床で患者さんを受け入れることができないことだろう。
実際に、私も当直中、救急隊からの依頼に、満床を理由に受け入れをお断りし、申し訳なく思う機会が多々ある。
病院経営は私が渡米した6年前と比較して、ずいぶん厳しくなったことを実感する。経済性を度外視して、重症患者の救命を行ってきた大学病院も例外ではない。
以前は、医局会でベッド稼働率が話題に上ることはあまりなかったように記憶しているが、最近はそういった類の話題が多い。
病棟ベッド管理医は、常に満床をキープしようと、入院と退院の入れ替えに頭を悩ませているのが現状だ。
病院の収益を確保するためには、ベッドの稼働率を上げなければならない。
しかし、ベッドを埋めておくと救急患者の受け入れはできない――この堂々巡りの状況では、いつまでたっても「たらいまわし」問題は解決しそうにない。
解決するためには、ベッドを満床にしなくとも経営が成り立つような診療報酬体系の確立が必要であろう。ある程度、病院経営に余裕がないと、いつもぎりぎり一杯の経営をしなければならない。
以前、新聞で、シティーホテルの損益分益点は、稼働率60%程度というのを読んだことがある。病院経営もそれくらいの稼働率で成り立つのであれば、「たらいまわし」は大幅に減るかもしれない。
退院したがらない患者
日本でベッド管理を難しくしている要因には、「退院したがらない患者」にもある。
アメリカでは、朝の回診時に、検査データや患者の状態から退院が可能と判断して「今日、退院できますよ」と言えば、
ほとんどの患者さんは「早速、家族に迎えに来てくれるように連絡するよ」と電話をかけ始める。
翻って日本では、「そろそろ退院しましょうか?」と勧めると、「家族の都合がつかないので、週末まで入院させてほしい」「まだ不安なので、病院にいたい」という返事が返ってくることが多い。
退院自体を喜ばれることがアメリカに比べて少ない印象がある。
医学的には、入院の必要性がないにもかかわらず、入院を継続するので、ベッドは埋まったままになる。
病院経営的には、ベッド稼働率を高い状態にキープすることができるので、「わざわざ退院を急かす必要もないか...」という判断になる。かくして、「たらいまわし」の原因がここに作られる。
なぜ日本人は退院したがらないのか?
その最大の理由は、自腹で支払う医療費がアメリカのように高額ではないからだと思う。確かに、3食付いて、身の回りの世話をしてもらえるなら、病院にいる方が楽だ。
私も、飯さえもう少しおいしければ、入院生活もまんざらじゃないと思うことさえある。しかしアメリカでは、病院に延泊すると高級ホテル並みの料金が請求がされる。
ならば、患者も1日も早くわが家に帰って療養した方がよい、と思うのは当然だ。
これらの観点から、「たらいまわし」をなくすために努力すべきことを、私なりにまとめてみた。
1)不必要な救急外来受診を抑制するために、追加の受診料を徴収する(これは既に試みられてますよね)
2)満床にしなくても病院経営が成り立つような診療報酬体系を確立する
3)医学的に退院可能な状態になったら、その後の期間はextra chargeを取るなどして、1日も早い退院を促すような制度を作る
いずれも、今の日本の医療の常識からすれば、患者にとって厳しい要求ばかりだろう。しかしながら、医療をめぐる状況は変化している。その変化に合わせて、患者側も変わらなければならないような気がする。
いつの日にか、自分自身が「たらいまわし」にならないために...。
と、今回は患者側が努力すべき点が多くなってしまったが、行政、医療サイドにも変えるべき点は多々あると思う。それらについては、今後、どこかで...。


(日経メディカルより抜粋)


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