医療ニュース 2008/9/4

院内暴力対策を5つのレベルでマニュアル化

東京都病院協会はこのほど、冊子マニュアル『目で見る 院内暴力対策』を発行した。現在急激に問題化している患者の暴力や暴言にどう対処するか、現時点で考え得る対策を病院職員向けにわかりやすく解説したものだ。
7月13日付の日本経済新聞朝刊のシリーズ「蘇れ 医療」の「全国病院調査 患者サービス編」によると、同調査に回答した病院のうち、実に71.7%もの病院が過去1年で暴言やセクシュアル・ハラスメントを含む院内暴力が起きているという。
そして「暴言・暴力は年々エスカレートしており対応に苦慮している」という東海地方の病院の声を紹介している。対策として、警察等への通報を始め、対策マニュアルの整備、職員教育などを挙げる病院が増えているという。
こうした状況を受けて、東京都病院協会は昨年11月、院内暴力に関して加盟病院対象の調査を実施した。回答があった国公私立の210病院のうち、2006年度中に身体的な暴力を受けたケースは133病院で2674件に上ったという。
同協会ではこの結果を踏まえ、マニュアル作りを行った。『目で見る 院内暴力対策』の冒頭にはこう記されている。「医療は医師を含めた職員と、家族を含めた患者さんとの信頼関係のうえに立って行う共同作業である。にもかかわらず、関係がくずれ院内暴力は発生する」。
関係がくずれ院内暴力は発生する原因は多々あるだろうが、その改善は極めて難しい。しかし、暴力は次第にエスカレートする。職員を守るために、早急に対策を打ち出すことが必要というのが、今回のマニュアル発行の狙いのようだ。
マニュアルに紹介している暴力の発生状況によると、多いのが「身体的暴力」33.3%、「言葉の暴力」32.2%と、これだけで全体の3分の2を占める。次いで「セクハラ」13.9%、「いじめ」9.7%、「その他 嫌がらせ」8.8%となっている。
マニュアルでは、被害にあったらすぐに「加害者から距離をとる」→「応援を呼ぶ」→「暴力の実態、発生した時間をメモ」→「上司に報告」→「記録に残す」ことをアドバイスする。特にセクハラの対策法について言及し、
「やめてください」と加害者に伝える一方で、発生した日時、内容、加害者などについて記録し、"我慢せず"に同僚や上司に相談することが重要と記す。ということは、我慢している職員がいかに多いかということを類推することができる。
マニュアルでは院内暴力のレベルについて1から5までの段階を規定する。たとえば「レベル1」では、暴言・ハラスメントが起こった場合について、「相手の怒りを和らげる」「おびえず、うろたえず、き然とする」「距離をとる」「逃げ道を確保し、応援要請」することをアドバイスする。
「レベル2」は脅迫・暴力行為および器物破損を加害者が起こした場合で、レベル1での対応に加え、「応援要請する(緊急コールを発令)」「危険なものを遠ざける」と対応もレベルアップする。
「レベル3」以降は傷害・後遺症・生死に関わる暴力行為に対するものだ。ここに至って警察への通報がアドバイスされる。「レベル3」は「叩かれた」「殴られた」「蹴られた」などで精神的傷害を含む1週間以内の治療を要するもので、
「可能な限り警察に通報」し「被害者はカルテを作成し診察を受ける」ことを勧める。
「レベル4」は刃物や器物を用いての暴力で、精神的な障害を含む治癒まで1週間以上を要し、重大な後遺症が残るもの。被害者は「逃げられる場所に移る」とともに「警備員ないし警察に通報する」ことを義務付ける。
最も被害が甚大な「レベル5」は、傷害が原因で生死に関わる暴力に対する対策であり、記述している内容は、レベル4以上に病院内の出来事から大きく逸脱するものだ。
アドバイス内容としては「警察に通報し多くの応援者を要請する」「緊急コールを発令する」「被害者の応急処置をする」「他の患者・職員の安全に留意する」「逃げ道を確保する」「加害者の通路を遮断する」など。
『目で見る 院内暴力対策』はこのほか、暴力発生時の現場の管理者の対応や被害者に対するケア、職員・同僚および病院管理者の対応、加害者への対応についても記している。


日経メディカルより抜粋


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