医療ニュース 2009/1/7

薬剤師はどこへ行く?―薬学部開設ラッシュの不安

3年ほど前のことですが、薬学部に進学しようかどうか迷っているという受験生から進路相談を受けました。もともと理系志望とのことですが、このところの理工離れの典型例か、
理工系の学部や学科には食指は動かないとおっしゃいます。そこで消去法で薬学部か医学部を考えたものの、医学部は薬学部より難しそうだから、薬学部にしようかと思ったりする。
しかし、このところ4年制から6年制に移行、あるいは併置などと制度改革時期と聞いている。これからのキャリアイメージがつかめないのだそうです。
そういう趣旨の相談を受け、今まで現場でお付き合いのあった薬剤師さんたちのことを思い出したり、このところ仕事でご一緒する薬剤師さんたちの生き方について思いをめぐらせてみました。
結局、私の回答は次のようなものでした。「このところ医療における薬剤師への期待は高まっている。医薬分業が進み、薬局で働く薬剤師も病院で働く薬剤師も専門知識を深め、医療に貢献することを期待されている。
それゆえに薬剤師養成に6年制の導入もなされた。将来、仮に研究者になりたいと考えても、理工系の学部学科より臨床に近いし有利だとも思う」
このような多分に建前論に傾いたアドバイスをしましたが、彼は何を思ったのか入試の直前に「落ちてもいいから医学部を受けてみる」と宗旨変えをしていました。
まあ、そのまま合格してしまったのですが、「医者も大変だよな」と先輩気取りで、ときどき学校の様子を伺って、取材したりしています。
このようなことがあったからか、その後も新聞などで「○○大学薬学部薬学科新設!」などという広告が載っていると、どうしても目が行ってしまいます。この新設が実に多いのです。
「このところやけに開設ラッシュじゃないか!?」という印象です。
データを調べてみると、後でお話するように志願者が定員に満たないところが出るようになった今でも、薬学部開設を目指している大学がいくつもあります。
2008年度にも薬学部開設を目指している大学が、鈴鹿医療科学大学、立命館大学、つくば薬科大学(仮称)と少なくとも3大学あります。申請通り承認されれば、2010年度には76大学になろうかという勢いです.
(結果、前の2校は2008年に開設が認められ、つくば薬科大学も開設予定です)。
特にこの新設ブームで私立薬大の増加が顕著で、新設が目立ち始めた2003年から30校ほど増えたことになり、まさに倍増の勢いです。
このような情勢は、薬剤師増産を望む時代の流れにマッチしたもので非常に結構なことですね...となるかというと、そう簡単なものでもなさそうです。
少子化の流れは、大学の競争や淘汰に激しく鞭を入れつつあります。北陸大学の教職員組合は、自大学の薬学部の非常に厳しい情勢について、教職員組合ニュースで分析しています。
まず、直近の薬剤師国家試験の合格率が大幅に低下したことを嘆きます。今回国試を受験した卒業生は大幅定員増によって大量入学させた学年で、合格率の低下は入学時点から予想されていたと指摘します。
この大学は08年度の薬学部入学定員充足率は70%となってしまったといいます。粗製濫造的教育が国試合格率の低下を招き、定員割れがほぼ確実と予測された3月には受験生にダイレクトメールを送付したといううわさまで出たそうです。
こんな体たらくが入学したい学生の腰を引かせたのではないかと、厳しく問いかけています。組合員である教職員も生活者です。
大学経営者との間に葛藤が生じるのはやむを得ないところで、このニュースの記述をすべて額面通りに受け取ることはできませんが、これからの薬剤師界や薬剤師の卵たちに立ちはだかる多難な前途を示唆しているのかもしれません。
逆に、ドラッグストアでOTC薬が販売される規制緩和の時代に、薬のプロとしての薬剤師の数や資質のニーズが高くなると見ることもできます。必ずしも薬剤師過剰を危惧ばかりする必要はないかもしれません。
一方で、スーパーにも薬が置かれるというさらなる規制緩和で、薬剤師がワーキングプア化する可能性も否定できません。
3年前に進路相談を受けて以来、新たな相談を受けたことはありませんが、薬剤師の世界も先の見えにくい時代であることは間違いなさそうです。


(日経メディカルより抜粋


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